静かなる前進|続き
派手な帆は張らない。大きな汽笛も鳴らさない。けれど、確実に船は進んでいる。かつて私は、追い風だけを待っていた。
凪の日は不安になり、逆風の日は焦った。しかし今は違う。
凪こそ、舵を整える時間。逆風こそ、帆の張り方を学ぶ時間。
洋食という文化は、決して爆発的に広がった料理ではない。静かに、家庭の食卓に入り込み、
静かに、日本人の心の奥に根を下ろした。
オムライスも、ナポリタンも、ハンバーグも、誰かの人生のそばで、騒がず、
誇らず、ただ温かく存在してきた。
だから私は思う。
世界へ広げるのも、同じでいい。大きな声よりも、深い共感。
速い拡大よりも、確かな信頼。香港でも、シンガポールでも、その先のどの国でも。まずは一皿。
まずは一人。静かに前進する。焦りは波を荒らす。確信は水面を整える。
今日もまた、小さな舵を切った。それでいい。
この航海は、急ぐ旅ではない。これは、文化を運ぶ航海なのだから。





